
動物病院の経営者のなかには、「動物の診療には自信を持てても、飼い主さんに商品やサービスを勧めることに自信が持てない」という人が少なくありません。
そのような経営者の多くは、「飼い主さんから売り込みされたと思われたくない」「営業中心になって、医療の本質から離れてしまうのでは」と考えるようです。
しかし、飼い主さんやそのペットにとっての最良の商品を紹介したり、必要なサービスを伝えたりすることは、決して営業ではなく、むしろ医療の一部です。
どうしてもあなたが抵抗を感じるのであれば、「売る」ではなく「伝える」という姿勢を意識すると、あなたの提案に説得力が生まれ、飼い主さんの心も動くようになります。
今回は、飼い主とさんの信頼関係を軸にした提案行為のあり方についてお話ししていきましょう。
飼い主さんへの提案時には「根拠」の明確化を
飼い主さんにペット向けの商品を提案する際、単なる商品説明で終わっていませんか。パッケージや説明書を読めばわかる内容を伝えるのは、ただの事実の羅列であり、目の前にいるペットへの必要性が伝わりません。
飼い主さんが獣医師であるあなたの説明に求めているのは、「なぜこの商品が必要なのか」「他の商品ではだめなのか」といった、説得力のある理由です。
商品を案内するときには、「あなたのペットには、こういう理由でこのケアが合うと思います」と、根拠を個別化して伝えましょう。「体重がこれくらいだから」「この症状が続いているから」「こういう生活環境だから」など、飼い主さんの現実と結びつけて説明することで、「押しつけ」ではなく「説得力のある提案」になります。
理想的な獣医師の話し方については、以下の記事をぜひ参考にしてください。
関連記事:飼い主さんから信頼される獣医師になるためには話し方が重要!
提案に自信がない獣医師ほど事前準備が必要
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なかなか商品を購入してもらえなかったり、飼い主さんから怪訝な顔をされたりと、あなたの提案がうまくいかないのは、もしかしたら「準備不足」が原因かもしれません。
商品の提案中に飼い主さんから想定外の質問を受けて言葉に詰まってしまったことはありませんか。それは獣医師としての力量ではなく、事前準備の問題です。
急な質問に焦ることがないように、飼い主さんに商品を紹介する際には、以下の質問がくることを想定しておきましょう。
- もっと安いものはありませんか?
- 副作用はありますか?
- 続けるとどんな変化がありますか?
- 他の商品はありませんか?
これらの質問を、すべて飼い主さんの立場で考えて整理しておきましょう。答えを事前に準備しておくことで自信を持って説明できますし、院内で共有すればスタッフ全員が同じ内容で対応できるようになります。
選択肢を整えておくことも経営の一部
最終的に商品を選ぶのは飼い主さんですが、動物病院側は飼い主さんが選びやすいように、提供できる選択肢をあらかじめ整理しておきましょう。「この症状・年齢・ライフスタイルのペットには、この3商品を提案する」といった基準をあらかじめ決めておくと、説明がスムーズになり、提案の質も均一化されます。
ただし、用意した選択肢を提示する際には、おすすめ商品を推しすぎないことも大切です。飼い主さんには一人ひとりに違う価値観があります。価格より品質を重視する人もいれば、その逆の人もいるものです。
それぞれの飼い主さんの希望に添えるように、「ペットのために、飼い主さんと一緒に考える」という姿勢を前面に出し、納得していただけるまで選択肢を提案し続けましょう。
選択肢の提示方法については、以下の記事で触れていますのでぜひ参考にしてください。
飼い主さんの意見には理解と共感を示す

飼い主さんは、獣医師による商品の説明そのものよりも、「自分の悩みをきちんと理解してくれているか」「納得できる説明をしてくれたか」を強く記憶するものです。
そのため、提案時には一方的にあなたが話すだけではなく、飼い主さんの話を最後まで聞いて、感情の温度を合わせましょう。一度飼い主さんの意見をすべて受け止めたら、改めて「不安に感じている点はどこか」「気になる商品はどれか」を丁寧に聞き出したうえで、有益な商品情報を順序立てて説明してみてください。
短時間の説明であっても、「共感と理解」を示しておくことで、提案の成功率は大きく変わってくるでしょう。
コミュニケーションが苦手というあなたは、以下の記事を読んでみてください。
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信頼関係をより強固にするアフターケア
商品の提案は、一度行って終わりではありません。次回以降、また新しい商品が出たときにも購入していただけるように、購入後もフォローを忘れないようにしましょう。
次の来院の際には「前回購入していただいた商品はいかがでしたか?」という一言があるだけで、飼い主さんは安心し、あなたへの信頼が深まるでしょう。この積み重ねこそが、リピーター獲得につながるものです。
飼い主さんへの商品提案において最も大切なのは、「ペットにとって一番良い選択を、一緒に考える」という獣医師の姿勢です。提案は決して押しつけ・押売りではなく、ペットや飼い主さんがより良い生活を送るためのきっかけづくりです。
準備を怠らず、選択肢を整えて、説明の質を高めていくことで、自然と信頼関係が生まれ、長く愛される動物病院へと成長していけるでしょう。売ることに迷いを感じたときこそ信頼を築くチャンスと捉え、飼い主さんには積極的にあなたの動物病院の商品を勧めていきましょう。
