初めて来院していただいた飼い主さんにおすすめしたい商品があったとしても、なかなか声をかけられない、ということもあると思います。気難しい飼い主さんや、話しかけにくい雰囲気を出している飼い主さんであればなおさらです。緊張をほぐすつもりで雑談から入ってみたのに「馴れ馴れしい」と思われたり、反対に敬語交じりで話しかけたら「堅苦しい」と距離を感じられてしまったり…。こういったトラブルはセールスでよくある事例です。
新規の飼い主さんに対して、営業の変則技を使うのは少々危険なこと。まずはベーシックな営業スタイルをおすすめします。今回は飼い主さんを不快にさせない、新規の飼い主さん向けのセールステクニックについてお話ししたいと思います。
ソリューションセールスの定義
私は基本的なセールススタイルは、ソリューションセールスにあると考えます。ソリューションセールスとは、提案型営業とも言われていて、飼い主さんとの会話を通じて各個人が抱える悩みを見つけ出し、その問題の解決策を提供する営業スタイルです。セールスの原点とも言えるでしょう。
自分の悩みを解決できて、うれしくない人はまずいません。ソリューションセールスは、どの飼い主さんにも応用できる営業方法であり、わかりやすくメリットを提示する営業であるため、営業ビギナーにもおすすです。そんなソリューションセールスを、どのように進めていけばいいのでしょうか。
ソリューションセールスではまず不安を煽ること（但し、煽り過ぎはダメ）
ものすごくベタな話ですが、「吊り橋効果」という心理学用語がありますよね。相手と危機的状況を共有し、乗り越えることで、相手に好感を抱くというものです。これを動物病院におけるソリューションセールスに取り入れてみましょう。
まず、飼い主さんに現状のペットの課題や問題点を伝えて、さりげなく相手の不安を煽ります。飼い主さんは指摘された課題に対して不安を覚え、どうにかしたいと思うものです。そこであなたは、自社の製品を用いた具体的な解決策を示します。 ものすごく単純なように思えますが、実際にこれだけのやり取りで相手の獣医師に好感を抱き、商品を購入してくれる飼い主さんが存在するのです。もちろん、マニュアル通りにすべてうまくいくとは限りませんが、試してみる価値はあります。
危機感を抱かせるトークのステップ
ソリューションセールスの主な流れは以下の通りです。
まずは飼い主さんの悩みを伺いつつ、ペットの現状を伝えて、再認識してもらいましょう。「ワンちゃんをこのままにしていると、いずれこういった病気になる可能性があります」「トリミングサービスを受けなければ、ノミだらけになり、家族の健康に影響を及ぼすかもしれない」などと伝えると、多くの飼い主さんは危機感を覚えます。
この段階で、飼い主さんが危機感を覚えているなと感じたら次のステップになります。もしここで飼い主さんの反応が鈍ければ、健康診断の結果やペット関連の資料を用いて、具体的な数字を示して、無意識下にある飼い主さんの危機感を増幅させます。飼い主さんが危機感を覚え始めたと感じたら、この段階で初めてトラブルを回避できるサービスや商品を提示します。商品を紹介する時には、商品の魅力といえる根拠や事例を紹介すると、安心感を与えられます。
現状の把握→危機感の扇動→問題解決方法の提示→実感できるであろう効果の順番で、トークを展開していくのがコツです。初診の飼い主さんに緊張していても、この方法であればマニュアルに則るだけで簡単に話を展開できます。
セールスで不安を煽るときの注意点
セールスにおいて不安感の扇動は決して悪いことではありませんが、煽りすぎるとかえって不信感を招くことになります。「ひとつでも多く売りたいから」と言って、「今決めなければ二度と買えません」「絶対に後悔します」など、強い言葉で押し売りをするのは極力避けましょう。かえって「この商品は売れないから無理矢理売ろうとしているのではないか」と、獣医師への不信感を煽ることになります。
あくまで商品で解消できる問題を指摘するときのみ、危機感の扇動を意識してください。
不安を煽る言動は、基本的に人を不快にさせる行為ですので、やりすぎないように注意しましょう。そして、自分の商品が本当に飼い主さんにとって、不安を解消するものかどうかを考えるようにしてください。セールストークを展開するときには、スライドやDVDを使用すると、飼い主さんも課題を強く意識するようになりますし、商品の魅力をわかりやすく伝えられるようになります。
不安を煽るという行為は、決して褒められた行為ではありません。さらに、しつこく煽るような獣医師であれば、かえって飼い主さんからの信用を失うことになります。一度飼い主さんの危機感を刺激することができたと感じたら、しつこい説得はやめて、飼い主さんの判断に任せてください。
セールスの基本であるソリューションセールスを押さえておくことで、新規の営業も掛けやすくなります。煽りすぎや、しつこいセールストークには注意をして、お互いが「話せて良かった」と思える、気持ちの良いセールスを目指しましょう。
