動物病院におけるアンケート調査の秘けつ、今回は第三弾です。
みなさんはアンケート調査を受ける時に、じっくり考える派ですか?それとも直感で回答する派ですか?
アンケートの調査内容にもよるかと思いますので、一概にどちらが良いとは言えません。
ただし、「調査」と言うとどうしても硬い印象になり、「正しく答えなければ」という気持ちが働いて、ついつい考え込んでしまいがちです。
真面目な人ほど、この傾向は強いです。
しかし、直感で即答してもらうことも実は非常に重要です。
今回はアンケート調査に直感で即答してもらう大切さについてお話をしたいと思います。
これまでのアンケート調査についての解説は、以下の記事で振り返ることができます。
関連記事:動物病院の広告はアンケート調査で最大限の効果を狙おう!
なぜ直感でアンケートに回答してもらうべきなのか?
実際に飼い主さんからアンケートを取り、その結果をもとに商品やサービスを作ったにも関わらず、売上が伸びなかったという経験はありませんか?
こういった失敗例は動物病院に限らず、他の業界でも非常に多いです。
この理由としてさまざまな要因が考えられますが、そもそもアンケート調査で飼い主さんの潜在的なニーズを引き出せていなかった可能性があります。
前述の通り、飼い主さんは自分の素直な感情に従ってアンケートに回答しているとは限りません。
- 本当はこう思っているけれど、非常識と思われそうで怖い
- 相手を傷つけてしまいそうで本音を言えない、婉曲的な表現しかできない
- そもそも自分が本当に欲しいもの、求めているサービスがわからない
- 一般的にはこれが良いと思われているのだから、これを選んでおけば間違いがない
など、短時間の回答時間中にもさまざまな想いを巡らせています。誰に言われたわけでもないのに、無意識のうちに自分の心を抑圧してしまう。この現象を「バイアス」と呼びます。
情報過多の時代にあって人々の感情には、よりバイアスがかかりやすくなっています。もはや従来型の調査では、回答者の本音をあぶり出すことが難しいとさえ言われています。そのために、即答していただいて客観的な評価を記録させる調査方法が注目されています。
飼い主さんが真に求める内容を知りたいときには、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:アンケートを取って飼い主さんのニーズ&ウォンツを知ろう
飼い主さんの本音をあぶりだす「STP」メソッドとは?
飼い主さんの本音をあぶりだす調査として、近年注目されているアンケート手法が「STP(Short Time Presentation)」です。株式会社 BBSTONE デザイン心理学研究所の特許手法であるこの調査では、調査対象のサービスや調査を消費者に1秒弱見せて評価をしていただきます。消費者は直感的に判断することになるため、潜在的なニーズを引き出すのに有効とされています。
特にこの手法は、視覚が重要な要素となっているため、商品のデザインを決定する際に有効です。動物病院でもシャンプーやトリートメントなど、ペットアイテムを扱う機会が多いかと思いますが、新商品のデザインを考える際にはこのSTPを活用してみてはいかがでしょうか。
一般的なデザインと合わせて、少し攻めたデザインを入れ、どちらが良いか尋ねてみると、思いもよらない回答が得られるかもしれません。
STPを成功させるためには
STP、すなわち直感を重視するアンケート調査を実施する際には、ただ短時間で回答してもらえれば良いわけではありません。「短時間で回答してください」と伝えると、焦って適当に回答してしまう方がいるためです。そのようなことがないように、ポイントを押さえたうえで設問を設計するようにします。
アンケート調査に余計な情報を載せない
たとえば、過去のアンケート調査結果を回答用紙に記載したり、他の飼い主さんの口コミを紹介したりしないようにしましょう。余計な情報を回答者に与えることになり、バイアスがかかってしまうおそれがあります。
質問文も長文にすると、わかりづらいうえに余計なバイアスがかかってしまうことも。回答時間を短縮するためにも、質問文はシンプルにしましょう。
最適なアンケート時間を探求する
STPではデザインを見て判断する手法であるため、1秒程度で回答する方式となっています。しかし、質問文を読まなければならないアンケート調査において1秒で回答するのは至難の業です。そのため、スタッフに頼んで模擬調査を実施し、最適な回答時間を考えましょう。選択式(単一・複数回答)、自由記述、評価スケール(5段階評価など)など、設問タイプによって適切な回答時間は異なるので、ぜひ一度模擬調査を取り入れて、「1問あたり〇秒」と目安を決めて、自分の動物病院流のSTPメソッドを完成させてください。
インターネット調査では、個人のペースに合わせて回答していただくことになるため、STPの実施は難しいです。しかし、対面調査であれば回答時間を自由に設定できるため、ぜひ飼い主さんの来院時にアンケートにご協力をいただくようにしてください。長すぎるアンケートは途中で離脱される原因になるため、アンケート全体の長さと設問数の最適化を心がけましょう。回答時間を短く設定していれば、飼い主さんも快く協力してくださるはずです。
アンケート調査の回答率をあげるコツについては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:動物病院の正しいアンケート調査の方法は?回答率を上げるコツを紹介!
STP以外でバイアスを回避する質問設計と環境づくり
STPは有効な手法ですが、他にもバイアスを軽減するためのよりシンプルな方法があります。
まず、最も重要なのは匿名性の確保です。飼い主さんが「特定されるかもしれない」「正直に答えると病院に悪く思われるかもしれない」と感じると、本音を隠し、当たり障りのない回答を選びがちです。オンラインアンケートであれば匿名回答の設定を徹底し、対面調査であれば回答用紙を回収箱に直接投入してもらうなど、個人が特定されない工夫を施しましょう。
次に、中立的な質問文を心がけることです。例えば、「当院の最新医療機器は素晴らしいと思いますが、いかがですか?」といった誘導的な質問や、「このかわいらしい新商品についてどう思いますか?」と感情に訴えかけるような表現は避けるべきです。代わりに、「当院の医療機器についてご意見をお聞かせください」や「この新商品のデザインについてどうお感じになりますか」のように、客観的でフラットな問いかけにすることで、飼い主さんが自身の判断で自由に意見を述べられる余地が生まれます。
最後に、選択肢の設計にも細心の注意を払いましょう。例えば、「非常に良い」か「非常に悪い」しかない、極端な選択肢だけでは、飼い主さんの微妙な感情や意見を捉えきれません。「やや良い」「普通」「やや悪い」といった中間的な選択肢や、「どちらでもない」「分からない」といった回答を用意することで、正直な気持ちを表現しやすくなります。これらの設計を意識することで、より正確で多様な意見を収集し、飼い主さんの真のニーズを浮き彫りにできるでしょう。
STPはユニークな施策ですが、動物病院という環境での実施には現実的な課題もあります。スタッフにかかる負担や、来院頻度の低い飼い主さんへのアプローチの難しさも否定できません。そのうえで、現実的な方法を選んでアンケート調査を実施することをおすすめします。