最近の動物病院は販売する商品やサービスが多様化してきています。私が経営する動物病院も例外ではなく、一般的な診療や手術だけではなくトリミングサービスやペットホテルを展開しています。犬猫向けの商品の販売にも積極的です。
今でこそ、どのサービスも軌道に乗っていますが、最初はなかなか思うようにサービス・商品が売れず、苦戦したことがあります。しかし、どこに問題があるのか、スタッフと話し合いを進めていくうちに気付くことができたのです。
その改善点とは、「サービスや商品は売り出す順番を決めなければならない」ということです。
なぜ商品やサービスには売り出す順番があるのか、またどのような順番で売り出せばいいのかについて今回はお話ししたいと思います。
フロントエンド商品とバックエンド商品の存在
マーケティングについて多少詳しい方であれば、「フロントエンド商品」と「バックエンド商品」という言葉を聞いたことがあると思います。
ここでいうフロントエンド商品とは別名「集客商品」と呼ばれるもので、消費者に買ってもらいやすい商品を指します。たとえば化粧品や食品のお試しパック、飲食店のお得なランチ、また習い事教室の無料お試しレッスンなどは代表的なフロントエンド商品です。マクドナルドの100円マックやコーヒーも、典型的なフロントエンド商品と呼ばれています。
これに対してバックエンド商品は価格がやや高く、その店の主力商品に該当するものです。その店の「本命商品」と呼んでも差し支えありません。収益率が高く、本当に企業が力を入れて販売すべき商品といえるでしょう。
しかし、どんなに良いものでも、いきなり高額な商品やサービスをお客さんに手にとっていただくのは難しいものです。私も動物病院を経営してきたなかで、そのことに気がつきました。
動物病院に導入した施策
フロントエンドとバックエンドを意識した、自院の施策を紹介します。自院でトリミングサービスを開始した当初、なかなか思うように集客が伸びませんでした。この状況を打破すべく飼い主さんの声を集めてみたところ、「自分の大切なペットのカットをいきなり頼むのは、少し心配」というご意見をいただきました。いくら「プロのトリマーがトリミングをしているから大丈夫」と言っても、最初はなかなか足が向かないようです。
そこで私はトリミングサービスのフロントエンド商品として、「お手入れメニュー」を導入しました。このお手入れメニューを選ぶことで、ワンちゃんやネコちゃんの爪切りや口臭ケア、耳掃除、足裏や足先のカット、肉球クリームなどのケアができます。1メニューにつき500円とリーズナブルで、飼い主さん達からは「試しやすい」と非常に好評でした。このサービスを利用し、トリマーの腕を確認してから、本番のトリミングサービスを申し込む人が増えたように思います。最初はこのサービスが果たしてフロントエンド商品となってくれるのか、自分でも懐疑的でしたが、結果は大成功でした。この体験から、私はフロントエンド商品を用意することの大切さを知ったのです。
無料オファーもフロントエンド商品になりうる
商品は大きくサンプルとフロントエンド商品、そしてバックエンド商品の3つに分けられます。しかし、サンプルとフロントエンド商品を混同しているところも少なくありません。確かに、無料体験サービスがサンプルになるのか、それともフロントエンド商品になるのかは区別が難しいところです。
フロントエンド商品として用意したものを、なかなか手に取ってもらえないということでしたら、思い切って無料オファーを用意してみてはいかがでしょうか。利益には全くなりませんし、サンプルを用意するコストがかかりますが、未来を見据えて多少の先行投資には目をつむりましょう。ペットのケアアイテムや業者から無料でもらえるカレンダーなど、ちょっとしたものでも構いませんので、無料オファーをいくつか用意してみてください。商品購入のハードルが低くなるはずです。オファーの設定については、以下の記事もぜひ参考にしてください。
関連記事:無料オファーの延長線上には必ず商品の存在を意識しよう
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フロントエンド商品の原則は3つ
フロントエンド商品を充実化してバックエンド商品の購入につなげたいという方、最初に商品を設定するときには、以下の3つを意識すると商品をつくりやすくなります。
- 無料もしくは無料同然の価格
- 飼い主さんが今すぐ欲しいと思えるもの
- バックエンド商品と関連があるもの
どんなに魅力的な商品であっても、高価すぎたり、ニーズがなかったりすれば、手に取ってもらえず、次の購買にもつながらないでしょう。
無料オファーやサンプルがフロントエンド商品として有効であるのは、このためです。ぜひ参考にしてください。
バックエンド商品を考える3原則
せっかくですので、フロントエンド商品だけではなく、バックエンド商品を考えるときのポイントについても触れておきましょう。バックエンド商品は、いわばあなたの動物病院の主力や看板商品となるため、フロントエンド商品よりもしっかりと作りこむ可能性があります。
そのなかでも、以下の3つは必ず意識しておきたいポイントです。
- LTV(ライフタイムバリュー)
- フロントエンド商品との一貫性
- 飼い主さんからのニーズ
LTVとは、飼い主さんがもたらしてくれる利益のことです。飼い主さんの平均購入単価と通院頻度を考えて、なるべくLTVが高くなるように設定しましょう。フロントエンド商品の見出しでも紹介した通り、エンドとフロントには必ず一貫性を持たせましょう。
一番大切なのは、飼い主さんからの需要です。マーケティング調査をして、一人でも多くの飼い主さんから購入してもらえそうな商品・サービスを考える必要があります。
広告を出していない動物病院こそフロントエンド商品の充実を
フロントエンド商品がなくても、広告で知名度を上げたことで、バックエンド商品を手に取ってもらいやすくなった動物病院も存在します。こまめに広告を打ち出したことで、飼い主さんに親近感と信頼感をもってもらえたというのです。
反対に言えば、これまで宣伝活動を行ってこなかった動物病院はまったく知名度がない、いわばゼロからのスタートとなります。その状態でいきなりバックエンド商品を購入してもらうのは、かなり厳しいものです。でしたら、まずは自分の動物病院を身近に感じてもらうために無料サンプルを配布することをおすすめします。動物病院の宣伝活動になりますし、 不特定多数にサンプルを配ることで知名度アップを期待できるでしょう。
今回は商品を売る順番の大切さについて紹介しました。最大の目玉はバックエンド商品であったとしても、その前段階となるフロントエンド商品に魅力がなければ興味を持ってもらえません。価格はもちろん、質も重視してフロントエンド商品・サービスを企画しましょう。