動物病院だけではなく、経営者にとって費用対効果を考えるのは非常に重要な業務です。
ひとつの施策に対してどの程度の費用・手間をかけたのか、分析したことは経営者であれば誰でもあるでしょう。
この時にひとつ注意していただきたいのは、過去にかけたコストにいつまでもとらわれないということです。
既にかけた費用を気にしない重要性は、どこにあるのでしょうか。今回は「サンクコスト」という定義と、過去にとらわれない重要性を紹介します。
サンクコストとは?
サンク(=sunk)とは、sink(=沈む)の過去形。すなわちサンクコストは、「沈んでしまった費用」を意味し、その名の通り戻ってこない資金のことを言います。集客効果が見られなかった広告費用、赤字に終わってしまったキャンペーン費用、また動物病院であれば使わなかった治療機器代はサンクコストの代表例です。サンクコストを一度も出したことがない企業は、ほぼ存在しません。しかし、サンクコストをサンクコストと認めずに、いつまでも執着している企業は少なくないと聞きます。
なぜなのでしょうか。その主な理由として、
- これから良くなるかもしれないと期待してしまう
- ここまで費用をかけたのに途中で辞めたら意味がなくなってしまう
- 自分のプライドを傷つけたくない
の3つが挙げられます。
サンクコストを過大評価してしまうのは、何も個人経営の動物病院だけではありません。かつて英仏が共同で開発した超音波旅客機コンコルドは、膨大な開発費用と時間をかけたにも関わらず、コストを回収できずに倒産してしまいました。1962年から始まったコンコルド計画は結果的に2000年まで続き、38年間もの間、社員たちはコンコルドを諦めきれなかったと言います。
大手企業であるにも関わらず、サンクコストに陥ってしまうのはよくある話です。もしかしたら、みなさんの動物病院にも、認識できていないサンクコストが存在するかもしれません。
そして、このサンクコストへの期待は事業経営だけではなく、
- ギャンブル
- 恋愛
- 課金ゲーム
- 株式投資
- 箪笥の肥やしになっている洋服
など、日常のさまざまなシーンに潜んでいるものです。サンクコストにばかり気を取られて、物事の本質を見失わないようにしましょう。
サンクコストをこれ以上増大させないためには
サンクコストを出してしまうのは事業を営んでいる以上、ある程度仕方がないものです。問題はサンクコストをいつまでも切り捨てできずに、損失を出し続けることにあります。
かといって、サンクコストの判別は決して簡単なものではありません。今「損失」に思えるものも、将来的には「投資」に変わる可能性が十分にあるからです。これは「サンクコストのジレンマ」と呼ばれています。
ジレンマに陥って、動物病院の方向性を見失わないように、いくつかの対策を取りましょう。
①あらかじめ限度を設定しておく
たとえばキャンペーンを実施する際には予算を決め、それを1円でも超える場合はたとえ効果がなくてもいさぎよく諦めるようなルール作りをしましょう。予算やスケジュールを決めておくことで、自分を律することができます。
②オピニオンリーダーを決めておく
経営者一人では、キャンペーンなどの施策を打つときに、客観的な判断ができなくなることも。そうならないように、第三者としての意見を提供してくれるオピニオンリーダーを一人決めておきましょう。特に信頼できるスタッフは、院内の事情をよく理解しているためおすすめです。自分一人では一度決めた限度額を変更してしまうなど、ついつい甘くなってしまいがちですが、それもオピニオンリーダーを配置することで、ルールを徹底できます。
③新しい施策を考える
ひとつの施策だけを打ち出していると、ついその施策にこだわってしまいます。これはサンクコストのジレンマに陥りがちなルートです。そのようなことがないように、複数の施策を考えておき、「このキャンペーンがダメだったらこの施策を試す」「コストをAとBとCのプランにそれぞれ3等分する」などとしましょう。確実にひとつの施策への執着がなくなります。
自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする認知の特性を「正常性バイアス」と言います。近年、災害などで注目された言葉であるため、聞いたことがある人も多いでしょう。サンクコストにとらわれていると、いつまで経っても新しい施策が打ち出せず、費用対効果を出すことにも後ろ向きになります。
そのようなことがないように目標設定をする、オピニオンリーダーを置く、複数の施策を考えるなど、いくつかの対策を取りましょう。大切なのはこれまでの損失を嘆くのではなく、失敗を糧に新しいキャンペーンをどんどん試してみることです。トライ&エラーを繰り返していくことで、自分の動物病院に理想的な方向性を見つけられます。