動物病院を経営している獣医師にとって、スタッフの指導は重要な業務のひとつです。しかし、周りを見ていると自分の意見をはっきりとスタッフに伝えられていない獣医師が少なくありません。理由を聞いてみると、「そもそも自分が完璧にできていないから」と答える人が多い印象を受けます。しかし、自分が完璧でないからと言って、指導を諦めてしまうのは果たして本当に良いことなのでしょうか。今回は従業員教育における「棚上げ精神」の大切さについて考えたいと思います。
棚上げ精神が必要とされる理由
例えば、遅刻は一般的に褒められた行為ではありません。しかし、人生で一度も遅刻したことがない人は、そうそういないはずです。人間である以上、ミスは誰でもするものです。完璧でなければ指導する権利がないとすれば、この世に人を指導できる人はいなくなってしまいます。本当に良い動物病院をつくりたいのであれば、時には自分を棚上げしてでも、口を挟まなければなりません。周りからの評判を気にしていては、いつまでたってもスタッフの質は上がっていかないでしょう。
思い当たる節がある方は、これを機会にスタッフの指導の方向性を考え直してみてください。
説得力のある人になるためには日頃の振る舞いが重要
完璧ではないとしても、やはり自分を棚に上げて他人を批判する人は、嫌われがちな傾向にあります。棚上げ精神が行き過ぎると、「自分だってできていないじゃん」と、スタッフからの反感を買うようになり、ひいては動物病院全体の雰囲気が悪くなってしまいます。これでは本末転倒ですよね。
そのようなことがないように、やはり普段からある程度院内の規則や一般常識・マナーを守るように心がけましょう。自分が組織のトップであるのをいいことに無法地帯にしていると、スタッフが離れてしまうことも。「人の振り見て我が振り直せ」を教訓に、自分の行動もときには省みてください。スタッフからヒアリングをするのも良いかもしれません。
常識のある行動や思いやりのある振る舞いが常日頃から取れていれば、スタッフも「いつもはきちんとしている先生だから」と、多少の棚上げ精神にも寛容になってくれます。
同じ指導の内容でも、普段の振る舞いによってスタッフからの評価は大きく変わってきます。「この先生になら指導されても仕方がない」と思ってもらえるような、獣医師を目指してください。
指導をする時には頭ごなしに叱りつけたりしない
たとえ、スタッフが悪かったとしても、頭ごなしに叱りつけると、どうしても人は反発したくなるものです。「だって、それは〇〇だったから仕方がない」「先生だってできていないし…」など、口には出さなくとも、頭の中で言い訳を考え始めることもあるでしょう。
こうなると、反省すべきものもしてもらうことはできません。スタッフの自発的な反省を促すためには、感情的に叱りつけたりせずに、どこが悪かったのか、今後はどう改善して欲しいかなどを、冷静に話し合います。また一言、「自分もできていない時はあるけどね」と、自分の反省点も伝えながら指導すると、「自分のことを思って指導してくれているんだ」と、気持ちが伝わります。自分が裸の王様でないことを自覚していると、口に出して伝えることが重要です。
反論されたときには
自分もできていないからと言って、指導が中途半端になるのは良くありません。たとえスタッフから「先生だってできていないじゃないですか」と言われても、怯んでしまっては、ギスギスした人間関係を生み出すだけです。言い返して喧嘩になってしまったら、もう雰囲気は最悪です。そのようなことがないように一旦は、「そうだね。僕もできていないところがあるよね。そこは直すようにする、だから君もこうしてほしい」などと、つとめて冷静に話をしましょう。
自分の改善点もきちんと伝える
自分はできていないのに、人にだけ変わってもらおうというのは、いささか都合のよい話です。スタッフを指導する際には、交換条件として自分の反省点や改善点をあげて、目標を設定しましょう。
「君はここが良くないからもっとこうしてほしい。僕は〇〇ができていないから、これからはこうする」など具体的に目標を掲げると、「先生が言うのであれば、自分もやらなきゃ」という気持ちになってもらえるはずです。一方的に自分の要求を押し付けるのではなく、自分の反省と改善点を伝えるところがポイントとなります。
結局最後は人間力
同じことをしているのに好かれる人もいれば、そうではない人もいますよね。私はこの差は人間力にあると感じています。日々きちんと挨拶をする、スタッフへのねぎらいの言葉を忘れない、感情的にならないなど、人間としての温かみがある人は、やはり人から好かれます。自分自身の人間力を高めることが、良い動物病院経営につながっていくはずです。スタッフを思いやり、多少棚上げ精神を発揮しても受け止めてもらえる、コミュニケーション能力を高めていって下さい。