今回は経営用語のひとつである「三現主義」についてお話をしたいと思います。
とはいってもこの言葉は製造業で使われることが多いため、聞いたことがない方も多いかもしれませんね。
「三現主義」とは、「現場」「現物」そして「現実」の三つの「現」を重要視し、実際に現場で現物を観察して現状を認識してから、問題の解決を図るべきだという考え方です。
オンラインでのやりとりが主流になった現代において、わざわざ現場に足を運ぶ方法は非効率だと指摘されることもありますが、時代の流れに関係なく、この考え方は今でも大切だと私は考えています。
私だけではありません。
現代でもビジネスの世界では現物確認を原則として実践している企業が少なくないのです。
例えばトヨタ自動車は「現場主義」を掲げていて、いわゆるトヨタ生産方式には、今でも三現主義を取り入れています。
また、ホンダ自動車の社長は「市場のニーズから外れないように、実際に現場に足を運ぶことが重要」と語っています。
自動車メーカー以外にも、花王やセブン-イレブンといった有名企業も、企業の幹部や役員が現場まで出向いて課題解決に取り組んでいるのです。
今後も重要視されるであろう三現主義は、製造業だけではなく、動物病院にも取り入れるべき考え方だと私は考えています。
動物病院に三現主義を取り入れるべき理由
そもそも動物病院における「三現」とは具体的に何を指すのでしょうか。私の考えは以下の通りです。
- 「現場」…実際に飼い主さんやペットと向き合う病院・クリニック
- 「現物」…飼い主さんやペット、院内のスタッフや取引業者、扱っている薬や商品
- 「現実」…売上や飼い主さんからの評判、スタッフの人間関係など現実に起きている状態
動物という命ある生き物に接する動物病院では、イレギュラーが何度も起こるものです。マニュアルに当てはまらない事態も多く、あなた自身の目で確認しなければ、信用失墜につながりかねません。
「百聞は一見に如かず」のことわざ通り、実際に耳で聞いただけの感想と、目で見たときに感じた印象は異なるものです。現場のスタッフまかせにするのではなく、積極的にあなた自身も目でしっかりと見て、現状に適した解決策を考えるようにしましょう。
そして、経営者であるあなた自身が実際に現場まで足を運んで、状況を確認することで、他のスタッフも刺激を受けるはずです。「院長がわざわざ見てくれているのだから、きちんとしなければならない」という気持ちになれば、動物病院という「現場」が整っていきます。
三現主義の姿勢を取ることが、あなたの病院の成長へとつながっていくはずです。
五ゲン主義を取り入れて意思決定をスムーズに進めよう
長い間提唱されてきた三現主義を進化させた「五ゲン(現)主義」という考え方があることをご存知でしょうか。これは 「現場」「現物」「現実」の三つに、「原理」と「原則」の要素を足したものです。ゲンがカタカナになっているのは、「現」と「原」が混在するからだと言われています。
動物病院を良くするためには、現場で現物と現実を確認するだけではなく、課題と解決策を見つけて、実践しなければなりません。それを三現主義で終わりにしていては、いつまで経っても発展はしないでしょう。
五ゲン主義として加えられた「原理」と「原則」の内容は以下の通りです。
- 「原理」…物事の法則やメカニズム
- 「原則」…多くのケースに該当する物事の決まりや規則・ルール
この二つを考慮したうえで、動物病院をより良くする施策を打ち出していく必要があります。
わかりやすく例を挙げて説明しましょう。
供給量よりも需要量のほうが多ければ、当然商品は売れやすくなりますよね。これは「原理」です。
そして、犬猫などのメジャーなペットの商品と、爬虫類などのマイナーなペットの商品、どちらを出したほうがよく売れるでしょうか。当然前者ですよね。これが「原則」です。
この二つを理解しておくことで「次は人気のある犬猫用の商品を新しく発売しよう」と施策を考案することができます。
もちろん、こんなに単純な考え方で施策が成功するとは限りません。しかし、現場・現物・現実の三つだけではなく、「原理」と「原則」の二つも把握しておくことで、経営を適正な方向に向かわせることができるでしょう。
三現主義、五ゲン主義にデジタルは不要か?
三現主義や五ゲン主義を掲げていると、まるでデジタルは不要と言っているかのように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。現に動物病院にもオンライン診療を取り入れている経営者は増えています。なかなか動物病院に足を運べない飼い主さんにとって、こういった取り組みはありがたいはずです。大切なのは効率化を意識するあまり、現場の状態をまったく見ないという状態をつくらないこと。最近クリニックや飼い主さんにしっかり向き合えていない気がするあなた、一度三現主義を意識してみてはいかがでしょうか。