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今回は「仕事の聖域化」をテーマにお話をしたいと思います。

聖域にはさまざまな意味がありますが、ここでは「触れてはならないとされている領域」の意味で使います。私があえて「聖域」という言葉を使うのは、それが単なる分業の話ではなく、「誰も触れられない領域」が生まれる危うさを伝えたかったからです。

聖域は最初から作られるわけではありません。多くの場合、「自分がやったほうが早い」「他人に任せるより確実だ」と思っていた小さな積み重ねの先に、気づけば誰も口を出せなくなっていた、というかたちで現れます。

あなたはこの聖域を仕事のなかでつくってしまってはいませんか?「ベテランだから」「プロだから」「獣医師は院内で自分一人だから」といった理由で仕事を一人で抱え込んでいると、業務が滞りやすく、いつまで経っても効率化を図れません。

また、あなたが聖域をつくっているつもりはなくても、院内業務のどこかに聖域が潜んでいるという可能性もあります。今回は仕事の聖域化が良くない理由と、聖域化を防ぐポイントをあわせて紹介したいと思います。

仕事の聖域化が良くない理由①仕事がブラックボックス化してしまう

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仕事をすべて一人で丸抱えし、他のスタッフに触らせないようにしていると、万が一不慮の事故があったり、退職したりすることになって引継ぎが必要になったとしても、仕事がブラックボックス化していて、難しくなります。限られた人しか業務内容を知らずに、何をしたら良いのかがわからなくなるブラックボックス化は、組織にとって決して良いものではありません。

仕事のブラックボックス化は引継ぎがしづらくなるだけではなく、不正行為が発生しやすいとも言われています。スタッフ間にトラブルが起こらないように仕事のプロセスは明確にしてください。

仕事の聖域化が良くない理由②コミュニケーションが滞る

一人またはごくわずかなスタッフが仕事を独占して聖域化してしまうと、院内のコミュニケーションがうまく取れなくなることがあります。「この業務はあのスタッフにまかせているから大丈夫」と思い込み、確認作業を怠るからです。コミュニケーションが不足しているとスタッフ間の連携がうまく取れずにギクシャクしてしまうことも。そのようなことがないように、聖域は作らないようにしてください。

スタッフの接し方については、以下の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。

関連記事:あなたの気持ちがスタッフに伝わる効果的な褒め方

仕事の聖域化が良くない理由③不平等感を覚えやすい

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聖域化した仕事に携わっているスタッフには、「自分は他の人にはできない仕事を任されている」という優越感が芽生え、他のスタッフへの当たりがきつくなる可能性が否定できません。これはパワハラ問題であり、コンプライアンスに厳しい今の時代、絶対に避けたいものですよね。それ以外にも聖域化されている仕事には、特定のスタッフに仕事が集中しやすくなり、不平等を訴えられる可能性もあるでしょう。そのようなことがないように、聖域化している業務があればすぐに見直すようにしてください。

仕事の聖域化が良くない理由④スタッフの育成ができない

仕事に聖域をつくってしまう人のなかには、「自分はこの仕事で評価されている」とプライドを持ってしまい、自分の立場が脅かされることがないように、仕事を独占してしまう人がいます。このように無意識のうちに“聖域”を作ってしまうケースもあれば、スタッフ側が「ここは院長の領域だから」と遠慮して距離を取ってしまうケースも存在します。

聖域は一方的に生まれるものではなく、双方の「見えない了解」のうえに築かれていくことも多いのです。そのような聖域を解く第一歩は「相手の仕事を理解しようとする姿勢」にあるのかもしれません。業務の引継ぎや情報共有を「奪う」ではなく「支え合う」と捉えることで、雰囲気ががらりと変わることがあります。

自己流のやり方にこだわってしまうと、個人も組織も成長が止まってしまうものです。もしあなた自身やスタッフに心当たりがあれば、仕事を独占しようとする心構えを見直してください。

仕事を聖域化しないためのコツ①まずは専門的な仕事とそうでない仕事を分ける

いざ聖域をなくそうと思っても、「どこから手をつければいいか分からない」という声をよく聞きます。そんなときは、まず「専門的でない仕事」から見直すのが効果的です。たとえば、在庫管理や備品の補充、会計処理、SNSの更新などは、手順を共有すれば誰でも担当できる業務です。こうした日常業務から任せることで、スタッフ側も「自分が支えている」という実感を得やすくなり、自然とチーム全体の流動性が高まります。

一方で、動物病院内で行われる業務の中には、専門知識や技術、資格を持っている人でなければできない業務も多々あります。例えば動物の診療は、獣医師であるあなたにしかできない業務の代表格です。それはあなた自身が取り組むしかありません。それも仕事を仕分けしておくことで、集中しやすくなります。

仕事を聖域化しないためのコツ②プロセスをマニュアル化する

①で明確化した「誰にでも任せられる仕事」はただスタッフに仕事を割り振るだけではなく、誰が読んでもわかるようにプロセスをマニュアル化しておきましょう。万が一スタッフの退職や配置転換があったとしても、スムーズに引継ぎができるようになり、業務が滞ることもありません。マニュアル化されていることで、「自己流」で仕事をするスタッフもいなくなります。

仕事を聖域化しないためのコツ③定期的に配置転換をする

人はどうしても同じ仕事ばかりしていると、自己流で取り組むようになってしまいます。それでは仕事が聖域化してしまうでしょう。このような事態を防ぐためには、定期的に仕事の割り振りをチェンジすることが有効だと考えます。半年に1回でも良いですし、1年に一度でも構いません。スタッフを変えても問題はないと判断できる業務は、定期的に担当者を変えて、常に緊張感を持たせましょう。不正発生の予防策にもなりますし、スタッフもマンネリを感じにくくなります。

動物病院内の良い雰囲気の作り方については、以下の記事も参考になりますよ。

関連記事:風通しの良い動物病院づくりで良好な人間関係を目指そう

仕事にプロ意識を持つこと自体は悪いものではありませんが、あまりに聖域化してしまうと院内の業務フローや雰囲気がギクシャクしてしまいます。今のあなたの動物病院には聖域化している仕事がないか、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

聖域をなくすことは、単に効率を上げるための仕組みづくりではありません。それは、誰もが安心して意見を出せる環境を整えることであり、「組織の健全さ」を取り戻す行為でもあります。業務が開かれれば、院内の対話も自然と増えます。そして、スタッフが互いの仕事を理解し合うことができれば、信頼の輪が広がっていくはずです。その積み重ねこそが、変化に強い病院をつくる土台になるでしょう。

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