doctor holding red stethoscope

かわいい動物達の命を守り、健康状態を維持することは私たち獣医師の務めです。その一方で、動物病院を経営していくためには、安定した飼い主さんの確保が求められます。少しでも多くの飼い主さんにサービスや商品を利用していただきたいという想いは、獣医師というよりも経営者としては当然の感情です。

しかし、その気持ちが強すぎると、どうしても売上至上主義に走る傾向にあります。こうなると新しい飼い主さんを確保するどころか、今来院していただいている飼い主さんを失ってしまうことにもなりかねません。

今回はセールス至上主義にならない獣医師のあり方について考えていきたいと思います。

あくまで獣医師の役目は動物の命を守ること

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世の中にはたくさんの職業がありますが、他の何にも代えられない命を直接守る仕事は限られています。獣医師はその役割を担う、数少ない仕事のひとつです。動物病院に来る飼い主さんのほとんどは自分のペットの健康を心配し、心細くなっているもの。そのような精神状態にある飼い主さんに対して診療はそこそこに、サービスや商品の紹介ばかりしていると「商売の話ばかりで親身になってくれない獣医師」という印象を与えてしまいます。例え診療内容に問題がなかったとしても、嫌な気持ちを味わったことで他の動物病院に乗り換えてしまうかもしれません。

また、近年飼い主さんのニーズは多様化し、インターネットを通じてさまざまな情報を手軽に入手できるようになりました。かつてのように「先生におまかせします」という姿勢だけではなく、積極的に治療に参加したい、納得のいく選択をしたいという意向を持つ方が増えています。

このような変化の中で、一方的なセールスや押し付けがましい提案は、飼い主さんの不信感を招き、関係性を損なう可能性があります。反対に、関係構築ばかりに注力し、必要な情報提供や提案を怠ってしまうと、動物の健康管理において不十分な結果を招きかねません。

だからこそ、私たちは今一度、セールスと関係構築のバランスを見直し、飼い主さんとのより健全で持続的な関係を築くための道を探る必要があるのです。

コミュニケーションをとることがセールス成功への近道

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動物病院の経営を持続するためには、飼い主さんとのコミュニケーションが重要です。獣医師さんから歩み寄って会話をすると飼い主さんは安心し、「親身になってくれる良い獣医師さん」という印象を持ってくれるはずです。また、コミュニケーションをとることで、飼い主さんやペットの状態がよくわかるようになります。そして、適切な商品やサービスを紹介できるようになるでしょう。

相手の話を聞かず、一方的に商品を売りつけるよりも、その飼い主さんが必要とするものを勧めるほうが、よほど効率的かつ確実です。黙って診療をするのではなく、日常的な会話を交わすように心がけてください。

自分の話だけではなく相手の話をよく聞く

たとえセールストークではなくても、自分ばかりが話していると、相手に一方的な印象を与えてしまいます。セールステクニックがある人は話し上手に思えますが、実は聞く能力に長けている人が多いのです。無口な飼い主さんから無理矢理話を引き出す必要はありませんが、自ら話そうとする飼い主さんの話は、親身になって聞くようにしてください。自分の意見があったとしても、一度全部聞き入れた上でアドバイスをしましょう。「自分の話をしっかり聞いてくれる良い先生」という印象を持たれるかもしれません。

コミュニケーションの取り方については、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:ペーシングで気持ちの良いコミュニケーションを図ろう

セールスをする時には誠実さを忘れない

もちろん、時には診療サービスやアイテムを紹介するセールストークが必要です。ここで重要なのは、いかに商売っ気を感じさせないかどうかという点に尽きます。「売上を上げたいから勧めてくるのであって、決して自分達のために勧めてくるのではない」と思われてしまうと、信用の失墜につながります。セールストークをする際には、まずなぜそのサービスや商品が飼い主さんやペットに適しているのか、使わないとどうなってしまうのか。また、返品や返金サービスはあるのかなど、飼い主さんに必要と思われる要素であれば良いことも悪いことも包み隠さず伝えるようにしましょう。紳士的な姿勢を見せることで、飼い主さんも心を開いて、獣医師の勧めを受け入れてくれるかもしれません。

誠実さの重要度については、ぜひこちらの記事も参考にしてください。

関連記事:動物病院には誠実さが何より大切!コンプレックス商法はやめよう

バランスを見つけるためのヒント

セールスと関係構築の適度なバランスは、飼い主さんの個性や状況によって異なります。重要なのは、常に飼い主さんの視点に立ち、状況に合わせて柔軟に対応することです。初診時には、丁寧な問診と説明に時間をかけ、信頼関係をの構築を最優先にしましょう。定期検診時には、ペットの健康状態を把握するとともに、飼い主さんの潜在的なニーズを探り、適切な情報提供や予防医療の提案を行います。

治療が必要になったときには、治療内容や費用について丁寧に説明し、飼い主さんの不安を軽減することに重点を置きます。追加の検査や治療が必要な場合は、その理由とメリットをきちんと説明し、納得を得ることが重要です。

セールスにつなげるためのステップ

良好な関係構築を土台としたセールスとは、単に商品やサービスを売り込むのではなく、飼い主さんのニーズや悩みに寄り添い、信頼関係に基づいて最適な提案を行うことです。それは、飼い主さんにとって「買ってよかった」「利用してよかった」と感じてもらえる、Win-Winの関係を目指すものです。

その一方で、飼い主さんと良好な関係が築けていても、いざセールスの話になると何から話せば良いのかわからないという方も、実は少なくありません。そのような方のために、スムーズに話を進められるステップを紹介します。

  • ニーズの把握:まずは関係構築を通じて、飼い主さんが何を求めているのか、何に困っているのかを把握しましょう。
  • 最適な提案:把握したニーズをもとに、ペットの健康維持やQOL向上につながる商品やサービスを、根拠を持って提案しましょう。
  • メリットの説明:提案する商品やサービスが、飼い主さんとペットにとってどのようなメリットがあるのかを具体的に説明します。
  • 選択の尊重:飼い主さんの意思を尊重し、無理強いは決して行いません。提案を受け入れなかった場合でも、良好な関係を維持することを心がけましょう。

セールスの方法については、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:カリギュラ効果を利用して飼い主さんの心に残るセールスをしよう

獣医師と飼い主さんの関係構築は一見難しいように思えますが、「気にかけている」という姿勢を見せるだけでも、仲が深まっていくものです。信頼関係を築くことが出来ていれば、販売促進もしやすくなり、多少高額な商品も「あの先生が勧めてくれるから」という理由で購入してもらえるかもしれません。普段から飼い主さん一人ひとりに丁寧かつ誠実な対応をするようにしてください。

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