プロとしての発信

動物病院を経営していくなかでは、誰しも一度や二度「ちょっと厄介だなぁ」と感じる飼い主さんに当たったことがあるのではないでしょうか。
最近は家族のようにペットをかわいがる人が増えていると聞きます。それ自体は喜ばしいことかもしれませんが、愛情が強すぎるゆえに、めちゃくちゃな言いがかりをつけてくる人もいると聞きます。
高度な治療機器を導入している動物病院では、おのずと診療費が高くなりがちで「なんでこんなに治療費が高いの?」と指摘されてしまうこともあるでしょう。
保険の効かない動物の診療費は、動物病院に通い慣れてない人にとってびっくりすることがあるようですね。

動物病院経営者の皆さんはこのような飼い主さんにあたられたとき、どのような対応をしていますか。
インターネットがなかった時代は「医師の言うことがすべて」といった風潮がありましたが、ネットが普及したこと、またセカンドオピニオンが一般に浸透したことで、自分の知識をひけらかしてくるような患者さんもきっといるはずです。しかし、そこで怯んでしまっては獣医師のプロとは言えません。

言うまでもなく獣医師は特殊な仕事であり、大学での6年間の勉強とその後の資格取得、さらに研修医時代を経た人だけが就ける職業です。
その仕事に携わっていることをもう一度自覚し、自信を持って発言することの大切さをお伝えしたく、今回はブログを書きました。

「自信が持てない」理由はどこにあるのか?

私が考えるに、自信を持てる・持てない理由はこれまでこなしてきた勉強量や経験だけではなく、個人の資質によるものが大きいのではないかと思います。元々自己主張が苦手だったり、人とのコミュニケーションを苦に感じたりする人だと意見を伝えようと思っても、うまく口にできないことも。

しかし、これは決して悪いことばかりとは言えません。反対に自信はあるけれど勝気な性格で、つい口調がきつくなってしまって、飼い主さんとの間に不和が生まれてしまう人もいるからです。

プロとして自信を持ちつつも、相手に気持ちよく納得してもらえるような発言ができる。そのような姿勢になるには、いくつかのコツがあります。

すぐに謝らないようにする

自信を持てない人にありがちですが、クレームを受けた時にすぐ「すみません」「申し訳ございません」など謝罪の言葉を口にして、丸く収めようとする人がいます。

しかし、これは少し考えものです。飼い主さんが「プロから謝られるようなことをされた」と捉え、余計ヒートアップするおそれがあるからです。最初に「すみません」と口にするときには、具体的に何に対して謝っているのか、理由とともに説明しましょう。
自分の治療内容ではなく、説明が不足していたことや勘違いさせてしまったことを謝罪すると、相手の気持ちも少しは安らぐはずです。

パンフレットや書籍を使った説明を

「インターネットにはこう書かれていた」「他の病院ではこれが正しいと言っていた」などと難癖をつけてくる飼い主さんに対しては、ムッとしてしまうこともありますよね。
しかし、すぐカッとなって言い返すのは NG です。
「プロなのに余裕がないのかな」「自信がないから怒ってるんだ」と、かえって思われてしまう可能性があるためです。
かと言って冷静に言葉だけ並べても相手には伝わらないこともありますし、言葉の応酬の水掛け論になってしまうことも。
口頭だけの説明をしないで、チラシやパンフレットを使ったり、書籍を渡したりするなどして、わかりやすく柔らかい説明を心がけましょう。
プロであれば余裕のある態度を見せることも大切です。

どうしてもできない時にはきっぱりと断るのもプロ

「どうしてこの治療をしてくれないのですか」
「他の動物病院ではやってくれるのに」
などといった言葉をかけられると少しモヤモヤしますよね。
プロであればすべて引き受けなければならないと、新人獣医であればあるほど思いがちですが、無理な治療は実績がなければかえって新しいトラブルを招く原因となります。
自分の病院で引き受けられないのであればきっぱりと断り、飼い主さんの望む治療を受けられる動物病院を紹介してあげることが本当のプロだと私は考えます。
プロ意識が高いことと、言われたことは何でもするのはまったくの別物です。
ときには断る勇気を持ちましょう。

動物目線でモノを語るのも有効

動物病院の主役は誰でしょうか。
私は獣医師でも飼い主さんでもなく、治療を必要としているペットこそが最優先にすべき存在だと考えています。そのためには動物目線になって、
「この子には〇〇が必要だから」
「この治療は猫にとって負担になるからこれにする」
など、動物目線で語ることが大切ではないでしょうか。自分の腕や知識量だけではなく、動物に寄り添った姿勢こそが本当のプロに求められるものです。動物目線で語ることで飼い主さんも納得してくれるかもしれません。

 

カスタマーハラスメントという言葉ができるほど、ほぼすべての企業や組織でクレームが見受けられます。クレームまではいかなくても、何かと治療に注文をつける飼い主さんはいても不思議ではありません。
そういった飼い主さんにも柔軟に対応できる姿勢がプロには求められています。決して及び腰になるのではなく、余裕を持って発言・発信することが病院への評価向上につながるはずです。

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