話している内容には問題がないはずなのに、なんだか飼い主さんや業者、スタッフとの会話が噛み合わないと思ったことはありませんか?
その場合、空気というよりも「会話の呼吸」が読めていない可能性があります。
歩き方やダンスにテンポがあるように、話し方にも人それぞれのテンポがあるものです。
それに気づかず、自分のペースで話をしていると、相手に不快感を抱かせてしまうことも。
特に飼い主さん相手の会話では気を付けたいものですね。
そこで今回は営業スキルのひとつと言われる「ペーシング」についてお話したいと思います。
ペーシングが大切な理由
話し方や状態、呼吸などのペースを話し相手に合わせることを「ペーシング」と言います。ただ相手が話すスピードに合わせるだけではなく、トーンや話す内容を合わせることもペーシングのひとつです。
なぜこのペーシングがコミュニケーションを行ううえで大切になるのでしょうか。それは、人間は共通点のある人物には心を開きやすく、親しみを持つようになるという心理を持っているためです。これを心理学の世界では「類似性の法則」と呼びます。診察や営業の機会でも、飼い主さんのペースに話を合わせることによって、その飼い主さんはあなたを信頼し、気を許しやすくなるでしょう。こちらの提案も受け入れてもらいやすくなるかもしれません。良好な人間関係を築くために、このペーシングは重要な要素と言えるでしょう。
特に「早口だよ」と指摘されることが多い方や、マイペースと言われやすい方は要注意。自分のペースで会話を展開している可能性があります。一度自分の話の進め方を見直してみると良いでしょう。
ペーシングで取り入れたい3つのスキル
相手と会話のテンポを合わせるためには、以下の3つのスキルを習得しましょう。いずれも少し意識するだけで改善できるため、ぜひ今日から取り入れてみてください。
マッチング
自分はゆっくり落ち着いて話しているのに、相手の声が妙に高かったり、早口だったりすると、違和感を覚えませんか。それは相手との声の調子が合っていない証拠です。あなたが違和感を覚えていれば、相手も違和感を覚えている可能性が高いでしょう。
このミスマッチをなくすためには、相手の声のトーンやテンポ、ボリュームに合わせて話をするようにしてください。これは「マッチング」と呼ばれるスキルで、声のみでコミュニケーションを取るコールセンターや電話営業を行う会社で重視されています。
相手の会話の呼吸を読みながら、自分も同じ呼吸をするように意識してみてください。それによって自然とテンポも合ってくるはずです。診察時や商談時など、実際に相手と向き合うときには肩や胸など、体の動きにも注目をして、同じタイミングで呼吸をしましょう。
ミラーリング
恋愛のテクニックとしてよく挙げられることが多いミラーリング。その名の通り、相手の姿を写す鏡になったつもりで、身振り手振りや姿勢をマネし、相手に「自分との共通点がある」と錯覚させるテクニックです。前述の通り、人は共通点を持つ相手に共感を抱きやすい生き物であることから、あなたに心を開いてくれるかもしれません。
ただし、まったく同じタイミングで相手のしぐさをマネすると違和感があり、「バカにされている」「信頼できない」と思われてしまうでしょう。そのようなことがないように、テンポを少しずらしたり、別の行動に置き換えてミラーリングしたりして、アレンジするようにしてください。
バックトラッキング
最後に押さえておきたいテクニックが「バックトラッキング」です。これは「オウム返し」と言えばわかりやすいでしょう。相手が発した言葉をこちら側も使うことで、「相手は自分の話をちゃんと聞いてくれている」「自分の話を理解してもらえている」と、安心感を抱かせることができます。それによって相手が自分に好感を抱き、こちらからの要求を受け入れてくれるかもしれませんね。
ただし、バックトラッキングもミラーリング同様にただマネるだけでは、不信感を持たれてしまいます。そのため、相手の意思をくみ取ったうえで、適切なタイミングでバックトラッキングをするようにしましょう。診察時であれば一旦飼い主さんの話をすべて聞き取ったうえで、「つまり○○ということで、△△したいということですね。それでしたら□□してみてはいかがでしょうか?」といった具合で返すようにしてみてください。
今回はペーシングにおける3つのポイントを解説しました。いずれもよく使われるコミュニケーションテクニックであるため、聞いたことがあるという人もいるかもしれません。しかし、実践できているという人はそう多くはないはずです。もしあなたと会話のテンポが異なる人と対面することになった場合、この3つのテクニックをぜひ意識してみてください。会話が弾むようになるかもしれません。