高校時代に倫理の授業で、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスによる「演繹法」を習ったことがあると思います。
忘れてしまったあなたのために説明すると…
- 前提1:人間はいつか必ず死ぬ。
- 前提2:私は人間である。
- 結論:私はいつか死ぬ。
という論法のことです。
これはロジカルシンキングの基本であり、アリストテレスが生きていた2300年以上前から存在した考え方です。
三段論法と呼ばれるこのロジカルシンキングは、今の時代を生きているあなたがロジカルコミュニケーションテクニックを磨く上で、知っておいて損はありません。
ただし、もちろん現代のあなたの仕事に合わせた考え方をしていかなければ、効果を感じられないでしょう。
そこで今回は演繹法、そして帰納法を用いたロジカルコミュニケーションのテクニックを解説します。
正しく演繹法を取り入れるためには
演繹法を用いて物事を考える際には、絶対的に「前提」が必要です。先述したように、「人間はいつか必ず死ぬ」「私は人間である」というふたつの前提があるからこそ、結論が導き出せていると言えます。まずはこの前提を考えることから始めていきましょう。
今回もトリミングサービスを例に挙げて説明します。
前提1:動物の毛は絶えず生え代わる
前提2:動き回る動物の毛を技術のない人がカットするのは難しい
結論:トリミングサービスの需要がある
ということになります。ここで重要なことは、前提の決め方です。一般的なルールや普遍的な事実はもちろんのこと、観察することでわかる事実も前提となりえます。ただし、あなたがすでに知っている情報でも、話し相手が知らなければ、この前提が成り立ちません。「トリミングサービスを設定したら人気が出る」と話したところで、相手がトリミングの難しさを知らなければ「飼い主さんが自分でカットするから、需要はないのでは?」と思われてしまう可能性もありますよね。
こうなれば、あなたの主張に説得力がなくなります。相手を説得するためには、まず前提となる知識を必ず相手と共有しておくようにしましょう。プレゼンの際に資料が必要となるのは、この前提を共有するためです。
また、もうひとつ押さえておきたいのは「自分が提示した前提が本当に正しいものであるかどうか」という点です。法律や規則以外にも一般論を演繹法の前提として置くことができますが、必ずしもその前提が万人に共通している認識とは言えません。例えばこのトリミングの事例でも「すべてのペット愛好家がトリミングサービスを必要としている」と前提におくのは、少々強引だと考えます。
あなたが提示した前提が本当に万人に共通するものかどうか、偏見が入っていやしないか、一度スタッフや取引業者に確認をとってみると良いでしょう。
帰納法についての考え方も押さえておこう
演繹法と聞いて、帰納法という言葉を思い出した人も多いのではないでしょうか。このふたつはいつもセットになっていて、同時に習った人も多いかと思います。しかし、このふたつはのアプローチ方法はむしろ真逆です。
帰納法の考え方は以下の通りです。
事実1:一般人Aさんは動物の毛を切ろうとして失敗した。
事実2:一般人Bさんは動物の毛を切ろうとして失敗した。
事実3:一般人Cさんは動物の毛を切ろうとして失敗した。
結論:動物の毛を一般人が切るのは難しい。
→プロによるトリミングサービスが必要である。
と、事実をもとにして結論を導き出す方法が帰納法になるのです。ここでポイントとなるのは、事実の質と量が多ければ多いほど、より精度の高い結論を導き出せるということ。そのため、帰納法のロジカルシンキングを取り入れる際には、なるべくたくさんの事実を集めましょう。共通項をまとめて、ひとつの前提を導き出す帰納法は、統計調査でもよく使われています。
帰納法は演繹法とは異なり、プレゼンや商談の場よりも、マーケティングや経営戦略、広告戦略を立てるときによく使われるロジカルシンキングです。つまり、帰納法の考え方を取り入れることによって傾向を把握し、説得力のあるプランを考えられるようになります。
また、実際に帰納法で導き出された結論が、演繹法の前提となることも多々あります。演繹法で前提をうまく出すことができずに悩んだら、一度帰納法から始めてみてはいかがでしょうか。結論から思わぬ方向性が見えてくるかもしれません。
今回は哲学の話が中心で、少し堅苦しいと感じた方もいるかもしれません。しかし、数千年にわたって今もなお浸透しているこのふたつの考え方は、最古にして最強のロジカルシンキングだと考えます。演繹法と帰納法のふたつの考え方を身に付けることで、新しいビジネスアイデアが生まれやすくなるはずです。人とコミュニケーションを取るときだけではなく、
マーケティングや経営分析の際にもぜひ役立ててみてください。