複数の作業を並行して行ったり、短時間で作業内容を切り替えたりする「マルチタスク」は人手不足が叫ばれ、情報があふれている今の時代をうまく乗り越えていくために必要なスキルだと考えられています。
確かに仕事の全体像を把握しながら、停滞せずに業務を進行できる点はマルチタスクならではのメリットです。
しかし、私はマルチタスクはかえって業務を非効率化させる元凶になっていると感じています。
なぜマルチタスクは「悪」なのでしょうか。
マルチタスクとは反対に、ひとつの作業に集中するシングルタスクは、どのように取り入れるべきなのかを今回はお話したいと思います。
マルチタスクが人間に不向きとされる理由
そもそも人間の脳はマルチタスクに適したつくりではありません。フランス国立衛生医学研究所は実験の結果、「人間の脳が並行できるタスクは2つが限界である」と結論付けています。また、スタンフォード大学の神経科学者らは、「我々が2つのタスクを並行しているとき、脳は猛スピードで複数のタスクを連続的に切り替えている」と発表しています。
一度に多くの情報を処理しなければならない現代にあって、私たちの脳は非常に疲れている状態です。こうなると前頭前野の機能が低下し、物忘れによるミスが起きやすくなったり、判断力や集中力が低下したりする傾向にあります。また、自律神経のバランスが崩れて、心身の不調が表れやすくなる点も無視できません。
効率を上げるために推奨されているマルチタスクですが、これではかえって逆効果です。今マルチタスクを推奨している動物病院は、即刻中止することをおすすめします。
マルチタスクによって起こりうる職場でのトラブル
マルチタスクは作業効率を低下させるものであることがわかりましたが、実際にどのようなトラブルが起こりうるのでしょうか。まとめて紹介します。
集中力の分散によるエラーの増加
複数のタスクに同時に取り組むと、おのずとひとつの作業に集中する力が分散され、結果として各タスクでのミスやエラーが発生しやすくなります。特に細かいチェックが必要な作業においては見落としが頻発しやすく、Wチェック体制を構築すればかえって手間がかかってしまい、非効率です。
ストレスと疲労による不和
前述の通り、複数のタスクを同時にこなしていると脳に大きな負荷がかかり、体にはもちろん精神にも異常をきたすおそれがあります。ストレスが増し、疲労感が蓄積されたスタッフばかりになると、当然院内の雰囲気は悪くなってしまうでしょう。ストレスによる人間関係のトラブルの発生は、スタッフの離職を招く可能性があります。
サービス品質の低下
マルチタスクでは各タスクに充分な時間やリソースを割くことが難しくなり、80%や50%の力で済ませてしまうことも珍しくありません。それによってすべてのタスクの品質が低下し、あなたの動物病院の評価が低下してしまうおそれがあります。特に動物病院の核となる診療サービスを提供している際には、ぜったいにひとつのタスクに集中するようにしましょう。
発想力の低下
マルチタスクが主流になっていると、ひとつのタスクに徹底的に取り組む機会が減り、新しいアイデアの創出が難しくなりがちです。とにかく早く済ませることを重視するため、少し横道にそれて「新しい施策を打ち出してみようかな」という考えに至らないのです。その結果、いつまで経っても変化のない、凡庸な動物病院になってしまう可能性があります。
シングルタスクで業務効率を改善する方法
ここまでの説明で、なぜマルチタスクが良くないのか、おわかりになられたかと思います。すっかりマルチタスクの習慣が身に付いてしまっているあなたでも、決して遅くはありません。以下のポイントに注意をして、シングルタスクに集中する姿勢を身に付けましょう。
まずは他の邪魔が入らないようにする
シングルタスクの最大の妨げになるのは、やはり電話やスマートフォンといった連絡ツールです。集中したいのに着信や通知音が気になって、結果的にマルチタスクになってしまったという人も多いでしょう。それであれば、すべての端末の通知をオフにして、静かな作業環境を確保しましょう。電話も決めた時間帯には取り次がないようにと、スタッフに周知することでひとつの作業に集中できるようになります。
また、作業をする場所の選び方も大切です。スタッフや患者さんがいるところはどうしても声をかけられやすいため、一人でこもれるようなスペースを確保しておきましょう。
タスクを分解する
大きな仕事は小さなタスクに分割することで時間管理がしやすくなり、それぞれに集中して取り組めるようになります。できる限り小さなタスクに分解して、ひとつひとつを確実にこなしていくように努めましょう。
優先順位を設定する
あれもこれもと気になって、すべてのタスクが中途半端になってしまう人も少なくないかと思います。そのような方は頭の中が整理できていない状態にあるため、まずはタスクリストを作成し、重要度や緊急度に応じてまずどのタスクに取り組むかを決定していきましょう。これによって時間を有効に活用し、重要な仕事に集中できるようになります。
スケジュール管理を徹底する
仕事を効率的に進めるためには、スケジュール管理が非常に重要です。スケジュールを立てたら、各タスクに適切な時間を割り当てます。また、集中力を維持するためには休憩時間の確保も欠かせません。無理のないスケジュールで、余裕を持ってひとつの作業に集中できるように調整しましょう。
作業環境を整備する
目につくものが多いとそちらが気になって、集中力が途切れがちです。人によって集中できる環境は異なりますが、やはりある程度整理整頓されたデスクや作業スペースが理想的です。周辺を整えておくことで失くしものをする機会も減り、探し物をする時間もなくなっていくでしょう。
マルチタスクが習慣になっている人は落ち着きがない印象で、周りからの信頼を失いやすいと考えられます。まずは目の前の仕事をひとつひとつ着実にこなせる獣医師を目指しましょう。回り道に見えても、最終的には効率よく大きな仕事をこなせるようになるはずです。