このブログでもたびたびお話ししてきましたが、動物の命を預かる獣医師は飼い主さんからの信頼が命綱です。
ひとたび信頼を失ってしまえば、二度とその飼い主さんは動物病院に足を運ばないでしょうし、噂が広がって他の飼い主さんからの印象が悪化するおそれもあります。
飼い主さんと強固な信頼関係を構築するためには、診察時には親身になって説明をしなければなりません。
しかし、自分の専門分野を専門外の人に説明するのは時として困難なものです。つい曖昧な表現をしたり、逆に専門用語を多用したりして、歯がゆい思いをした経験は私にもありました。
それではどのような話し方がベストなのでしょうか。
今回は飼い主さんに心地よさを感じてもらえる話し方についてお話ししたいと思います。
飼い主さんから信頼されない態度・話し方
長年動物病院を経営するなかで、どのような態度や話し方をすると飼い主さんから慕われやすいのか、反対に不審がられてしまうのか、私なりにわかるようになってきました。飼い主さんの個性によっても異なりますが、ここでは絶対にすべきでない態度と話し方を3つ紹介します。
①伝聞や推測表現
私たちは獣医師であり、動物を診るプロです。少なくとも飼い主さんはそのような目で私たちを見ています。動物の専門家であるはずの獣医師が「それは〇〇の病気に罹っているかもしれませんね」「△△の種類に多いケガだと聞いています」など、推測や伝聞表現を多用していたらどのように思うと思いますか?決して気持ちの良いものではなく、「なんだか頼りない先生」と受け取られてしまう可能性大です。
複数の症状が見られ、病気の特定に悩むことは確かにありますが、それを飼い主さんに悟られてはなりません。強く断定するのもまたリスクがありますが、弱々しい表現は極力避けましょう。
②ペットと飼い主さんには正面から向き合う
このブログでも何度か喚起してきましたが、診察時には必ずペットや飼い主さんにまっすぐ向き合いましょう。パソコンの画面を見ながら説明する獣医師がごくまれに存在しますが、これでは飼い主さんに「自分のペットをしっかり診察してくれない」と勘違いされても無理はありません。
飼い主さんからの信頼を得るためには、常に飼い主さんとは目を合わせて丁寧に症状を説明するようにしましょう。ペットを診る時には、そのペットに対して一言声をかけてあげるのも有効です。
③声が極端に小さい・大きい
話す内容や態度もさることながら、発声が飼い主さんに不快感を与えることがあります。小さな声で話す獣医師は「自信がない」と思われがちで、それだけで信頼感が揺らいでしまうことがあります。よく話を聞き返されることが多い獣医師さんは、少し声のボリュームを上げて、ハリのある声を意識しましょう。
反対に声が大きすぎるのも考えものです。特に動物病院に来院する飼い主さんには女性が多く、大きすぎる男性獣医師の声を「威圧的」と捉えてしまうことも。飼い主さんが何かを遠慮しているように見えたら、一度ソフトな発声を心がけると良いかもしれません。
動物病院内のコミュニケーションを改善するためには
伝聞・推測の表現は良くないとわかっていても、専門分野の話をするときにはつい使ってしまうこともありますよね。それでは一体どのようにしたら飼い主さんに専門知識を理解していただけるのでしょうか。ここからは説明のコツについて考えていきます。
①専門用語は具体化して話す
獣医師会の専門用語やなじみのない治療、病名をいきなり挙げても、飼い主さんはポカンとしてしまいます。獣医師側の一方的な説明にならないように、専門用語を説明するときには身近な例えを挙げて、表現を柔らかくしましょう。飼い主さんも噛み砕いて説明されることで、理解しやすくなります。
病気の場合、動物を人間に例えて説明する流れが一般的ですが、飼い主さんの職業や業種がわかっていれば、その業界内の出来事に例えると良いでしょう。
②数字を出して比較する
言語で話してもピンと来ないことでも、数字で説明されるとわかりやすくなることがあります。「今飼い主さんのワンちゃんの重さは50kgですが、少し太りすぎですね」と言われても曖昧な印象ですが、「一般的にこの犬種の平均は40kgですが、50kgまでいっているのは太りすぎですね」と説明すれば、事の深刻さを自覚してもらえます。単純なようで、非常にわかりやすい説明方法です。
③あえて専門用語を伝えるのもあり
分かりづらいからと言って、専門用語の使用を禁止する必要はありません。むしろ、専門用語を飼い主さんに伝えてあげることで「きちんと勉強している獣医師」という印象を持ってもらえるでしょう。NGであるのは用語だけを伝えて、その意味を説明しないことです。専門語を伝えるときには、意味をかみ砕いて説明することを忘れないようにしてください。
ちょっとした態度や話し方を改めることで、飼い主さんの反応は明らかに変わってきます。今回紹介した内容を参考に、患者さんとのふれあい方を一度見つめ直してみてはいかがでしょうか。